沖縄には独自の文化があり、沖縄移住者から見るとギャップの連続だとよく耳にします。
沖縄は本土とは違った独特な文化や風土などがありますが、顕著に現れるのは食文化ではないでしょうか。
今では沖縄料理は県外でもよく認知されてきましたが、調理前の食材を見ると驚かれる方も多いと思います。
特に県内スーパーには熱帯魚のような魚が並べられていたり、豚の顔や足などが置かれていたり、見た事のない野菜があったりと、本土出身者から見るとまさにギャップの宝庫。
今回はその中でもちょっと不思議な『島豆腐』にスポットを当ててみました。
島豆腐って?
島豆腐は本土の豆腐と比べるとかなり異質な存在です。
京都にある『男前豆腐』が多くの豆腐好きの心を掴んでいますが、島豆腐も負けず劣らずの『硬派な男前豆腐』じゃないかと思います。
それだけ硬くて重くて濃厚な島豆腐は、毛の濃い沖縄県民男性のような雰囲気さえも醸し出します。
…大きく話が脱線しましたが、それだけ県外の豆腐とは大きく異なります。押忍!
其の壱・『硬い!』
本土の木綿豆腐と比べても豆腐の硬さが全く違います。
チャンプルー料理でどんなに炒めてもその形が崩れることはありません。
言い回しで『豆腐の角にぶつかって死ね』(冗談を冗談と受け止められないような真面目な人に対して嘲笑って使う言葉)という言葉がありますが、この言葉を使った方が島豆腐を知っていたらこの言葉は生まれなかったのではないでしょうか。
とは言っても、島豆腐にぶつかっても死ぬことはありませんのでご安心を(笑)
其の弐・『重い!』
一丁の大きさが本土の豆腐の約3倍ほどあります。
また本土の豆腐の1丁の重さが約300gなのに対して、島豆腐は1丁が約1㎏ととても重くなっています。
スーパーなどでは、通常一丁もしくは半丁単位で口を開けたままビニール袋に入れて、アチコーコー(沖縄方言で「熱い」の意味)のまま売られています。
熱を逃がすために口を開けて陳列されている島豆腐に、やはり硬派なイメージを抱いてしまいます。
其の参・『濃厚!』
島豆腐は見た目だけではなく、味にも特徴があります。
島豆腐自体に塩味があり、「畑の肉」とも言われる”大豆”の味が濃厚で栄養価が優れています。
特にタンパク質は本土の豆腐と比較しても1.3倍はあり、沖縄県が「健康長寿の島」である理由の一つとも言われています。
その中でもゆしどうふ(呉汁から取った豆乳ににがりを加えた固まりはじめの豆腐のこと。やわらかくふわっとした状態で濃厚な味わいが特徴)は、大豆の味をダイレクトに味わうことができる一品です。
島豆腐の歴史
中世の琉球王国時代に明との朝貢貿易が活発に行われており、そこから豆腐造りの製法が中国から伝わったと言われています。(諸説あります)
独自の豆腐文化を持っていた沖縄が、1972年の本土復帰の際に本土の食品衛生法が適用されることになり、その際に問題になったのが、熱いまま販売する島豆腐の形でした。
食文化の維持などを理由とした陳情の結果、温かい豆腐をそのまま販売する方法が1974年に特例として許可されることになり、規格基準に追記されました。
2 豆腐の保存基準
(1) 豆腐は、冷蔵するか、又は十分に洗浄し、かつ、殺菌した水槽内において、冷水(食 品製造用水に限る。)で絶えず換水をしながら保存しなければならない。
ただし、移動 販売に係る豆腐及び成型した後水さらしをしないで直ちに販売の用に供されることが 通常である豆腐にあっては、この限りでない。厚労省:「食品、添加物等の規格基準」より参照
こうして、アチコーコーの豆腐が店頭などに並ぶことができ、昔と変わらない島豆腐が食卓で食べれるようになりました。
食品衛生法の特例許可がなかったら、チャンプルー料理も姿を変えていたかもしれませんね。
島豆腐と本土豆腐の製法とは?
島豆腐は本土の豆腐とは製法が根本的に違います。
通常の豆腐とは、すり潰した大豆を水と一緒に煮て、熱いうちに濾し、にがりを加えて固めたものです。
木綿豆腐は型に入れて重しで水を抜いたもので、絹ごし豆腐はそのまま固めたものになります。
沖縄の島豆腐は本土の豆腐と製造方法が少し異なり、生絞り法という方法で作られます。
本土の豆腐が、大豆を挽いた呉汁(水に浸して柔らかくした大豆をすり潰して入れた汁)を煮てから絞るのに対し、沖縄の島豆腐は呉汁を絞ってから煮ます。
生のまま絞るので、熱に弱いタンパク質が豆腐の中により多く含まれ、本土の豆腐に比べタンパク質が約1.3倍も含まれる所以なのです。
アチコーコー島豆腐のゲット方法
島豆腐は県内のスーパーで買うことができ、保存のきくパック豆腐も本土の豆腐と並んで陳列されています。
でも一番人気のアチコーコーの島豆腐がほとんどの買い物客のお目当て。
作りたての島豆腐を買うには納品時間が重要になり、各スーパーでは島豆腐会社の納品予定時間が貼り出されています。
基本的には朝と昼過ぎが納品時間ですが、業者によっては夕方届けてくれるところもあります。
豆腐が納品されるとBGMで知らせてくれるスーパーもあります。
島豆腐に合う料理とは?
チャンプルー料理
今はとてもポビュラーになったチャンプルー料理ですが、ほとんどのチャンプルーに欠かせないのが島豆腐です。
アチコーコーの島豆腐にはチャンプルーなどがよく合います。
ナーベラーンブシー(へちまの炒め物)
へちまを使った料理などでは、島豆腐を手でちぎって入れると表面積が増えるのでより味が浸みます。
味噌とへちまの水分が染み込んだ島豆腐は、一度食べるとお箸が止まらなくなるのでご注意を。
ナーベラーンブシー(へちまの炒め物)レシピ
スクガラス豆腐
スクガラスを乗せた島豆腐なども抜群に美味しく、酒の肴に最適です。
一口大に切った島豆腐の上に「スクガラス」というスク(アイゴ《エーグワー》の稚魚)の塩辛を載せただけのものですが、スクガラスの塩辛さと島豆腐のバランスが絶妙です。
また豆腐のサラダや味噌汁にも活用されたり、お店によっては創作料理の食材にも使われます。
アチコーコーの島豆腐が色々な料理に彩りを加えて、一口食べると心も体もホッとする。
大豆から取れる栄養素がこれでもかと詰まった島豆腐には、沖縄の文化や歴史もギュッと詰まっているのでした。